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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

日本大使館

                     ≪十月十九日≫   ―壱―

   朝から引越しの準備。
 仲間たちのたまり場となっている、ジョセフ・ハウスへ引っ越すのだ。
 目を覚ました時には、毛唐たちは部屋にいなかった。
 荷物を置いたままだということは、日が昇ると同時に街中へ飛び出して言

 ったようだ。

   シュラフをたたんで、バッゲージに括り付けて、背中に背負い外へ出

 た。
 10月とは言え、日が昇っていると、汗ばんでくるほど暖かい。
 ところが、ちょっとした日陰に入ると秋が感じられるほど涼しく気持良 

 い。

   プラカ地区を抜け、シンタグマ・スクエアーに出る。
 そこで、銀行に入り、ツーリスト・オフィスにて、アテネ市内の地図とギ

 リシャのロード・マップを手に入れる。
 もちろん、無料だ。

   ジョセフ・ハウスへ行く前に、日本大使館へ向う。
 日本からの便りが来ていないか、確認しようと言う訳だ。
 重い荷物を担いでいるせいか、大使館まで15分もかかってしまった。

   大使館の前には、長い間洗濯に出されたことがないと思われるほど、

 汚れたままの日章旗が無残にも垂れ下がっているのが見えた。
 玄関の重厚なドアを押し開けると、大きな鏡の間があって、正面に二階に

 上がる階段が配置されているのが分かる。

   事務所はどこかな・・・・と探していると、ちょうど階段から、ギリ

 シャ人らしき人が下りて来た。

       オレ「ちょっと、おっちゃん!日本の大使館はどこにおもっ

 しゃろ?」

   日本語で話しかけると、日本語は理解できないのだが、おおむね聞い

 ていることが分かったのか、答えてくれたではないか。

       おっちゃん「二階だよ。」

   ギリシャ語で答えが返ってきたが、手振り身振りでオレにも分かっ 

 た。
 いつもここで日本人に聞かれているのだろう。
 お礼を言って、二階に駆け上がると、ここにも重厚なドアが控えていた。
 ふと見ると、壁に張り紙がしてある。

   ”ブザーを押して、しばらく待ってください。自動的に鍵が開きます

 ので、ドアを押してください。”

   張り紙に書いてある通り、ブザーを押すと二三秒して、ロックが外れ

 る音が大きく響いた。
 また鍵が閉まっては・・・と思い、すばやくドアを押し開いて中に入る 

 と、カウンターが見えた。
 カウンターの向こうでは、地元の若い女子事務員と日本人らしき女性が座

 っている。
 奥の部屋は大使の部屋かも知れない。

       事務員「何か御用ですか?」

   御用だから来たんだろ・・・。
 タイプを打っていて、横顔しか見えなかった日本人事務員が立ち上がっ 

 て、笑顔でカウンターまでやってきた。

       俺  「レター・ボックスありますか?」
       事務員「手紙ですか?」

   そういうと、カウンターの下から小さな小箱を取り出すと、カウンタ

 ーの上に置いた。
 案外手紙は少なくて、届いた日付順に並べてあるだけだという。
 おかげで、全部の手紙を自分で調べる羽目になってしまった。

       事務員「ありましたか?」
       俺  「ええ、三通来てました。」
       事務員「パスポートを見せてください。・・・・・。ありが

 とうございました。それでは、こちらのノートに日付

とお名前をお書きください。・・・・・はい、結構で

す。・・・・・、旅ですか?」
       俺  「ええ、一ヶ月ほどアテネに居ますので、ちょくちょ 
く寄せてもらいます。」
       事務員「いつでも、どうぞ!」

   笑顔を絶やさない、実にすばらしい応対だった。
 大使館員というやつらも、いつもこうだと良いんだが・・・・。
 それに、美人だし。

   手紙はイスタンブールで受け取って以来だ。
 バンコックにも来てたと思うのだが、時間差で受け取れなったので、これ

 で二度目の手紙ゲットである。
 一通は親から、ほかの二通は、あいつからのものだ。

   食事でも何でも、一番食べたいものや一番見たいものは、後回しにす

 る癖がある。
 楽しみを取って置く。
 好きな食べ物は一番後にして、最後の食感を大事にする性格なのだ。
 早速、田舎からの便りを開封して、読み始めたところへ、正男たちが入っ

 てきた。

       正男「ヨー!来てたん??」
       俺 「ああ、ジョセフ・ハウスへ行く前に寄ってたんだ。」
       正男「手紙は・・・来てた?」
       俺 「三通な。お前にも、会長にも来てたぞ。」

   正男らが手紙を探し出すのを待って、一緒に大使館を出る。
 途中彼らは、街をぶらつくというので、重い荷物を降ろしたい一心で、彼

 らと別れた。
 オリンピック競技場の前に出る。
 ここからは、アクロポリスも見えるし、道を挟んで緑濃い公園が大きく広

 がっている。

   何十年か後には、女子マラソンのゴールとなる、競技場の前の白い像

 の下に腰を下ろし、二通のあいつからの手紙に目を通す事にした。




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